従業員の社会保険加入義務に関する重要なポイント

社会保険(健康保険、厚生年金保険)に関するご相談は日々お受けしているところですが、その中でも多いのが、「この人は社会保険に入れなければならないのか?」という、加入義務についてのご質問です。

自己選択は不可?社会保険料に関する従業員の疑問

「社会保険料を取られたくないから加入したくない。と言っている従業員がいるが、そもそも個人の意思で選ぶことはできるのか?」 と趣旨のご相談をいただくことがあります。  

このご質問については、すべて同じ回答になります。すなわち、「パートやアルバイトといった雇用形態、国籍、副業の有無、または本人の意思に関係なく、一定の条件を満たせば、必ず加入する義務がある」こととなります。今回の記事では、社会保険(健康保険・厚生年金保険)の加入義務が発生する条件についてまとめてみます。

社会保険に加入義務が発生するのは、「常時雇用されている従業員」です。具体的には、以下にて述べる1つの条件のうち一つでも満たせば、当該従業員は健康保険・厚生年金保険に加入する義務があります(※1)。

※1 以下の条件は、当該従業員が所属する事業所が「強制適用事業所」、当該従業員が「臨時又は季節的に雇用されている人ではない」ことを前提としてお話します。例えば株式会社などの法人はすべて強制適用事業所となりますし、2か月以内の期間を定めて雇用されている従業員は「臨時雇用」に該当します。

1.正社員であること

正社員は言うまでもなく社会保険への加入義務が生じます。また代表取締役など法人の代表者や役員も、労働保険(労災保険、雇用保険)とは異なり加入が必要となります。

2.一週間の所定労働時間、及び一か月の所定労働日数が正社員の4分の3以上であること

 パートやアルバイト、契約社員、再雇用者(※2)、時短勤務者といった名称を問わず、上記要件を満たせば加入義務が生じます。例えば正社員の週所定労働時間が40時間、一か月所定労働日数が20日の会社の場合「一週間の所定労働時間30時間・一か月所定労働日数15日以上」であれば加入義務が生じます。

※2 70歳以上になると原則として厚生年金保険の対象外となり、75歳以上になると後期高齢者医療保険の対象となるため、健康保険も対象外となります。

ただ、2の要件(いわゆる「4分の3基準」)については注意が必要で、この要件を満たさなくても加入義務が生じることがあります。それは「被保険者数が常時100人を超える(すなわち101人以上)法人の場合」です。この条件を満たす法人等を「特定適用事業所」と呼びますが、この場合、さらに以下条件をすべて満たす従業員は、いわゆる4分の3基準を満たしていなくても、社会保険への加入義務が生じます

A.一週間の所定労働時間が20時間以上であること

所定労働時間が週単位で定まっていない場合は、週単位に換算して確認します。例えば月単位で決まっている場合はそれを12分の52で除し、年単位で決まっている場合はそれを52で除します(年間12月、52週と想定)。

B.賃金月額が88,000円以上(年収106万円)以上であること

この金額からは、残業代や通勤手当等、いわゆる最低賃金に含まれないものは除外します。

C.学生ではないこと

この「学生」はいわゆる昼間学生が対象ですので、例えば夜間学部や休学中の者は「学生」ではないことになり、被保険者になり得ます。

なお、この「被保険者数が常時100人を超える」という規模要件は、令和6(2024)年10月より「被保険者数が常時50人を超える」へ、更に緩和されることが既に決定されています(※3)。つまり、特定適用事業所がより増加するため、結果として社会保険に加入義務のある従業員もそれだけ増える見込みなのです。現在、特定適用事業所に該当していなくても、本改正によって該当する、もしくは該当する可能性がある場合につきましては、管轄の年金事務所へ一度確認してみることをお勧めいたします。

※3 規模要件の緩和については、こちらの厚労省発行パンフレットが詳しいです。

https://www.nenkin.go.jp/service/pamphlet/kouseinenkin.files/jigyounushi_guidebook.pdf

以上、従業員に社会保険への加入義務が生じる条件について見てきました。繰り返しとなりますが、社会保険の加入義務については、事業主や従業員本人の意思とは関係なく、条件を満たしているかどうかによって客観的に決定されるものとなります。加入漏れや手続き漏れが無いよう、くれぐれもお気を付けください。

追記.2024.2.6

「社会保険の適用拡大について」を掲載しました

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