令和3年(2021年)9月に「脳・心臓疾患の労災認定基準の改正」が改正されました。
長時間の加重業務(労働)が認定基準であることは広く知られることではありましたが、これに加えて労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することが明確化されました。
改正のポイントは下記の4つになります。
1.長期間の過重業務の評価にあたり、労働時間と労働時間以外の負荷要因を総合評価して労災認定することを明確化
改正前は、発症前1か月におおむね100時間、または発症前2か月間ないし6か月間にわたって、1か月あたり80時間を超える時間外労働が認められる場合について業務と発症との関係が強いと評価できることとなっておりましたが、上記の時間に至らなかった場合も、これに近い時間外労働を行った場合には「労働時間以外の負荷要因」の状況も十分に考慮し、業務と発症との関係が強いと評価できることになりました。
従来は労働時間要件が認定のポイントでしたが、時間外労働が水準を下回ったとしてもこれに近い時間外労働を行った場合は「労働時間以外の負荷要因」も十分考慮して、業務と発症との関係性が強いと評価され、労災認定される可能性が高くなります。
2. 長期間の過重業務、短期間の過重業務の労働時間以外の負荷要因を見直し
労働時間以外の負荷要因のうち
「勤務時間の不規則性について」
従来の
- 拘束時間の長い勤務
- 不規則な勤務・交替制勤務・深夜勤務
に加えて
- 休日のない連続勤務
- 勤務間インターバルの短い勤務
が追加になりました。
「事業場外における移動を伴う業務について」
従来の
- 出張の多い業務
の他に、
- その他事業場外における移動を伴う業務を追加
その他
- 心理的負荷を伴う業務
- 身体的負荷を伴う業務
が追加となり、改正前の「精神的緊張を伴う業務」を「心理的負荷を伴う業務」に拡充しました。
3. 短期間の過重業務、異常な出来事の業務と発症との関連性が強いと判断できる場合を明確化
「短期間の過重業務」
- 発症直前から前日までの間に特に過度の長時間労働が認められる場合
- 発症前おおむね1週間継続して、深夜時間帯に及ぶ時間外労働を行うなど過度の長時間労働が認められる場合
「異常な出来事」
- 業務に関連した重大な人身事故や重大事故に直接関与した場合
- 事故の発生に伴って著しい身体的、精神的負荷のかかる救助活動や事故処理に携わった場合
- 生命の危険を感じさせるような事故や対人トラブルを体験した場合
- 著しい身体的負荷を伴う消火作業、人力での除雪作業、身体訓練、走行等を行った場合
- 著しく暑熱な作業環境下で水分補給が阻害される状態や著しく寒冷な作業環境下での作業、温度差のある場所への頻回な出入りを行った場合
4. 対象疾病に「重篤な心不全」を新たに追加
不整脈が一義的な原因となった心不全症状等は、対象疾病の「心停止(心臓性突然死を含む)」に含めて取り扱っていました。しかし、心不全は心停止とは異なる病態のため、新たな対象疾病として「重篤な心不全」を追加しました。「重篤な心不全」には、不整脈によるものも含みます。
従来は過去2から6か月における過重労働の有無が認定の基準を満たす大きな要素でしたが、月に80時間を超えずこれに近い時間外労働があった場合で、直前に短期間とはいえ過度な長時間労働がある場合などは労災認定されることとなります。
いずれにしても、2か月から6か月において時間外労働を80時間以内とはいえ、それに近い時間を行っている場合は注意が必要となり、さらに厳しく時間外労働を管理する必要があります。
労災は無過失でも支給。民事の損害賠償請求では安全配慮義務に関して過失の有無を問われることになり、労災認定されたイコール民事上過失に当たる。ということは本質的にはないのですが、実際の民事裁判では労災認定されることにより、使用者側の過失が認められる事例も多く。この認定基準の変更は大きな影響を与えることが予想されます。