パワハラの定義と事業者の責務について

厚生労働省(https://www.mhlw.go.jp/stf/newpage_40975.html)によると、昨年度において仕事上の強いストレスが原因でうつ病などの精神障害になり、労災と認められた人は883人と、過去最多となっています。その原因を詳しく見ると、「上司などからのパワハラ」が157人と最も多くなっております。

今回の記事ではパワハラの定義と、それについて課される事業者の責務についてご説明していきます。

1.パワハラの定義

 直接的に「パワーハラスメント」という用語の定義を定めた法律や条文はないのですが、労働施策総合推進法第30条の2において、実質的なパワハラの定義が記載されております。それによれば、パワハラとは職場において行われる

  • 優越的な関係を背景とした言動である
  • 業務上必要かつ相当な範囲を超えたものである
  • 労働者の就業環境が害される行為である。

以上3つの要件をすべて備えたものである、とされています。注意点としては、「職場」といってもいわゆるオフィスだけに限定されるものではなく、出張先なども該当しますし、「優越的な関係」とは必ずしも職位が上ということを意味せず、部下や同僚からの行為も該当可能性があります。

 なお、厚生労働省が発表している『事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針』(以下『指針』)(https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf)によれば、代表的なパワハラ言動として以下の6つが挙げられています。

1:身体的攻撃(暴行・傷害)

殴打、足蹴りを行うこと、相手にものを投げつけることなどが該当します。

2.精神的な攻撃(脅迫・名誉毀損・侮辱・ひどい暴言)

人格否定の言動や必要以上に長時間にわたる厳しい叱責の繰り返し、他の労働者の面前における大声での威圧的な叱責の繰り返しなどが該当します。

3.人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)

自身の意に沿わない労働者に対して仕事を外し、長期間にわたり別室に隔離したり自宅研修させることや、一人の労働者に対し同僚が集団で無視をすることなどが該当します。

4.過大な要求(業務上明らかに不要なことや遂行不可能なことの強制・仕事の妨害)

新卒採用者に対して必要な教育を行わないまま到底対応できないレベルの業績目標を課し、達成できなかったことについて厳しく叱責することなどが該当します。

5.過小な要求(業務上の合理性なく能力や経験とかけ離れた程度の低い仕事を命じることや仕事を与えないこと)

管理職である労働者を退職させるために、だれでも遂行可能な業務を行わせることや、気に入らない労働者に対し仕事を与えないことなどが該当します。

6.個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)

労働者を職場外でも継続的に監視したり、労働者の性的指向・性自認や病歴、不妊治療等の機微な個人情報を勝手に他の労働者に暴露することなどが該当します。

2.パワハラについての事業者の義務

事業者が雇用管理上講ずべき措置の内容として『指針』は以下を示しています。

  • 事業主の方親等の明確化及びその周知・啓発

例えば、就業規則等にパワハラの内容及びパワハラを行ってはならない旨の方針と、パワハラを行った者に対する厳正なる対処を明確に記載しつつ、パワハラの発生原因や内容、背景なども併せて社内報や研修等で従業員に周知徹底を図ることなどが考えられます。

  • 苦情を含む相談に応じ、適切に対処するために必要な体制の整備

例えば、相談窓口・担当者をあらかじめ定めておき、必要な教育研修を行う一方で、相談を受けた場合に窓口担当者と人事部門とが連携して動くことができる体制を構築しておくことなどが考えられます。

  • 事後の迅速かつ適切な対応

例えば相談窓口に相談を受けた場合、迅速かつ慎重に当事者(行為者・相談者)から事実確認を行い、パワハラの事実が確認できた場合には速やかに被害者の保護措置(行為者の謝罪、管理監督者または産業保健スタッフ等による被害者のメンタルヘルス対応など)かつ行為者への適正な措置(就業規則等の規程に基づき厳正に対処するとともに、被害者と引き離すための配置転換など)をおこなう一方、改めてのパワハラに対する方針の周知徹底などの再発防止策を行うことが考えられます。

以上の措置と併せて、相談者や行為者のプライバシー保護の措置と必要性、ならびに相談窓口に相談したからといって不利益は被らない・被らせない旨の周知徹底を図っておくことが必要となります。

3.まとめ

2024年8月19日付の労働新聞記事(https://www.rodo.co.jp/news/181187/)によると、東京労働局が発表した令和5年度におけるパワハラの相談件数は7929件と、前年の3倍に増加しております。パワハラは組織に深刻な影響を与え、場合によっては企業の持続的な成長に悪影響を及ぼす可能性もあります。適正な対応ができるように準備を整えておきましょう。

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