ジョブ型人事制度とは
ジョブ型人事制度とは、ひと言で表すと「仕事そのものを基軸とした人事制度」で、世界的に主流を占めるものです。これだけでは分かりづらいかと存じますので、日本においてメジャーである職能型人事制度と比較する形でその特徴をまとめてみます。
職能型人事制度とは「社員の能力を基軸とした人事制度」であり、評価基準も「社員の能力」となります。そのため極端な例を挙げれば、全く同じ仕事をしている2人がいても、それぞれ能力が異なっていると評価されれば、その2人の待遇も異なるものとなってくるのが職能型人事制度となります。
それに対しジョブ型人事制度は「従事する仕事」を評価の基軸としますから、仕事が同じであれば両者の評価・待遇も全く同じものとなり、個人の能力は考慮されないのが原則となります。
近年、日本においてもジョブ型人事制度の導入が進められておりますが、それは企業レベルの話ではなく、国を挙げての感すらあります。その証左として国は今年8月に『ジョブ型人事指針』というものを策定・発表しており、その中で「日本企業の競争力維持のため、ジョブ型人事の導入を進める」と明確なビジョンを打ち出しております。
国がジョブ型人事制度の導入を進める背景には、職能型人事制度が持つデメリットである「自律的なキャリア形成が困難である」ことがあります。新卒一括採用された社員が会社の指示に従って異動を繰り返し、そこで与えられた仕事を頑張っていくことで昇給・昇格していくという従来の姿では、キャリア自律志向のある従業員にはマッチしませんし、そもそも会社の示す道が正解であるという保証もありません。
また職能型人事制度はその性質上、どうしても評価基準が曖昧となりがち(なんであの人があのポストに?ということは割とありがちな現象です)ですから、従業員も何を頑張れば良いのか、どのスキルを伸ばせばよいのかが分からず、結果としてモチベーションに影響してしまうのです。 ついては、ジョブ型人事制度の詳細や注意点、リスクなどをご説明していきます。
ジョブ型人事制度の設計と導入のポイント
ジョブ型人事制度の設計のポイントは、「等級制度」「評価制度」「報酬制度」の3つをしっかりと検討することです。
まず等級制度ですが、これを作成するには個々の職務を一つひとつ定義づけし、職務記述書を整備するとともにそれらを職務価値に応じて序列化し、等級に格付けしていくことが必要です。職務価値の評価方法は多々ありますが、例えば「必要とされる知識・経験」「解決すべき問題のレベル」「達成すべき責任」といった評価軸を立て、それらの合計点で格付けしていくという方法があります。
等級制度が決まれば、自ずと評価制度の方向性も定まりますが、職務の達成度合いだけではなく、職務遂行に必要な行動の発揮具合(いわゆるコンピテンシー評価)も盛り込むことで、より整合的な評価制度となります。
報酬制度は、前段までで定まった等級と評価をどう反映させるかというのが第一義的な問題となりますが、一方で社外報酬水準との比較や報酬構成(給与・賞与比率など)、報酬幅や昇降給テーブルなどを定めておくことも必要となります。
これらが定まったうえで導入に進むこととなりますが、ジョブ型人事制度は「成果主義」「人件費抑制」といった負のイメージで捉えられがちですから、導入時に従業員に対しどのようなコミュニケーションを取っていくかが、導入の成否を決める分水嶺となります。この導入時コミュニケーションですが、大きく「全体向け」と「個別向け」に分けることができます。
まず「全体向け」ですが、「人事部が社員説明会を開催する」ということだけでは、とても足りません。例えば社内で最も大きな影響力を持っている経営トップが、導入の数年前から事あるごと(年頭あいさつ、社内報、社内講演等)に制度の導入目的や趣旨などについてメッセージを発していく、くらいの姿勢が必要です。
経営陣の率先垂範が、会社の不退転の意思を示すことに繋がります。このように「全体向け」でしっかりとした素地を作ったうえで、「個別向け」へと移っていきます。「個別向け」のゴールは、「個々の処遇をきちんと説明し、同意を得ること」になります。この際のポイントは「客観的事実に基づきつつ、誠実に伝える」ことです。例えば説明者が対象者に対し過度に感情移入したり、説明者の主観的認識をもとに説明してしまうと、かえって反発を招くリスクがあります。そうではなく、あくまで会社としての客観的な判断であることを、可能な限り丁寧に説明していきましょう。