前回の記事では、年次有給休暇を与えるべき要件と、その日数についてご説明いたしました。今回の記事ではそれに引き続き、個別具体的に各労働者へ有給休暇を付与する段において注意しておくべき点をご説明いたします。
1.労働者の請求する時季
年次有給休暇は、労働者の請求(指定)する時季に与えるのが大原則です(労基法第39条5項)。
しかしながら、例えば労働者が一斉に休暇を取ったりすると事業の運営ができなくなることも考えられますので、このように労働者の請求した時季が事業の正常な運営を妨げる場合には、使用者は他の時季に振替えて与えることが可能です。これがいわゆる時季変更権と呼ばれるものになります(労基法第39条5項但書)。
なお、この「労働者の請求した時季が事業の正常な運営を妨げる場合」とは、その者の担当業務を含む相当な単位の業務(課や係の業務)の運営に不可欠であり、代替要員の確保が困難な場合です。その判断はあくまで個別的・具体的・客観的になされるものであって、単に使用者から見て業務が繁忙であるというだけで休暇を与えないことは認められませんので注意が必要です。
また当然ながら、退職予定者に対して退職日を超えた日付へ時季変更権を行使することも認められません。
2.付与単位について
年次有給休暇は日単位で与えることが原則です。しかし、就業規則に記載の上、当該事業場で労使協定を締結すれば、1年に5日間を限度として時間単位での取得も可能です(労基法第39条4項)。この時間単位での付与を導入するかは任意(法的義務はありません)となりますが、導入する場合に労使協定で定めるべき事項は以下の通りとなります。
ア)対象者の範囲
事業の正常な運営との調整を図るため、対象となる労働者の範囲を定めることができます。ただ、利用目的は労働者の自由ですので、取得目的によって範囲を決めることはできません。
イ)時間単位年休の日数
「5日間を限度」とは、1年間の年次有給休暇の日数のうち5日以内という意味です。前年度からの繰越がある場合でも、繰越分を含めて5日以内となります。
ウ)時間単位年休1日の時間数
1日分の年次有給休暇が何時間分の時間単位年休に当たるかについては、所定労働時間をもとに定めることとなります。が、所定労働時間に分単位の端数がある場合(7時間30分など)は、労働者有利になるように端数を切り上げる必要があります。すなわち、1日分の時間単位年休は、1日の所定労働時間が7時間30分の場合は「8時間」になるということです。
エ)1時間以外の時間を単位として与える場合の時間数
2時間単位など1日の所定労働時間を上回らない整数の時間を単位として定めます。
なお、時間単位年休についても時季変更権の対象となりますが、時間単位による取得を希望しているにもかかわらず日単位に変更することや、その逆(日単位希望⇒時間単位に変更)は認められませんのでご注意ください。
3.計画的付与について
年次有給休暇は労働者の請求する時季に与えるのが原則ですが、労使協定を締結すれば、休暇取得日を計画的に割り振ることが可能となります。例えば夏季に夏休みとして全従業員を対象に一斉付与したり、社員を一定の班やグループに分けたうえで交替的に付与するといった活用例が考えられます。
なお注意すべき点としては、計画的付与によって与えられる年次有給休暇の日数には制限があります。具体的には、労働者が自由に使える日数として「5日」は必ず残しておかなければなりません。例えば12労働日付与された労働者の場合は、計画的付与できる日数は「7日間」となります。
4.使用者による時季指定
平成31年4月の改正労基法により、付与すべき年次有給休暇が10労働日以上ある労働者については、年休の利用促進のため、5日間を使用者が時季指定して与えなければならないこととなりました。ただ、③でご説明した計画的付与の日数や労働者自身が時季指定して利用した日数はこの5日間から控除できます(労基法第39条7項・8項)。イメージとしては「最低5日間は必ず労働者に有給休暇を取得させねばならず、5日未満の者に対しては、不足分を事業主が時季指定して取得させねばならない」と理解していただければ良いかと存じます。
以上、年次有給休暇を具体的に労働者へ付与する際の注意点をご説明いたしました。使用者による時季指定義務などは、労働者ごとに年次有給休暇の日数や取得実績をしっかりと管理できていることが前提となりますので、ご注意ください。