| 【前編との関係】本コラムは「副業・兼業解禁だけで終わらせると上場審査が止まる日(2026年6月1日掲載)」の実践編です。前編では副業解禁が抱えるリスクの全体像をお伝えしました。本編では、実際に審査で問われる管理体制を具体的な手順とチェックリストで解説します。 |
はじめに――「どう管理するか」が、審査の本題
前編では、副業・兼業を「解禁した」だけでは不十分であり、管理体制の整備なき解禁がIPO審査において深刻なリスクになることをお伝えしました。
では、具体的に「何を」「どこまで」整備すれば審査に耐えうる体制になるのか。労働時間の通算管理、健康確保措置、競業避止・情報漏洩リスクの管理、そして申告記録の整備――本編ではこれらを実務レベルで掘り下げます。
「副業を認めているが管理が追いついていない」「就業規則には書いたが運用が形骸化している」という上場準備企業のCFO・人事担当幹部に向けて、今すぐ着手すべき整備ポイントをお伝えします。

IPO審査で確認される「副業管理の5つの実務ポイント」
1. 就業規則の「副業容認条文」に管理ルールを明記する
「労働者は勤務時間外において副業・兼業を行うことができる」という一文だけでは不十分です。厚生労働省のモデル就業規則を参考にしながら、以下の内容を明記してください。
- 副業・兼業を行う場合の事前申告・承認の手続き
- 申告すべき内容(副業先の名称・業務内容・所定労働時間・雇用形態)
- 禁止または制限される副業の類型(競業他社・情報漏洩リスクのある業務等)
- 副業中も遵守すべき秘密保持・情報管理義務
- 副業を理由とした本業への支障が生じた場合の対応
就業規則への明記は「副業管理の入口」です。規程なしに副業を容認している状態は、審査で「無秩序な副業容認」と評価されます。
2. 労働時間の通算管理と「管理モデル」を導入する
副業先が雇用契約の場合、本業との労働時間通算管理が法的に必要です。毎月の実労働時間を都度確認する原則的な管理は実務上困難なため、厚生労働省が推奨する「管理モデル」の導入を強く推奨します。
管理モデルの導入手順は以下の通りです。
- 副業開始時に、従業員から副業先での所定労働時間等を申告させる
- 本業での法定外労働時間と副業先での所定労働時間の合計が、単月100時間未満・2~6か月平均80時間以内となるよう上限を設定する
- 管理モデルの導入について、従業員と副業先の両方に通知・合意を取る
- 3か月に1回程度、副業先での実労働時間の状況を確認する
また、副業の有無を問わず、長時間労働者への医師による面接指導は会社の義務です。副業している従業員については定期的な労働状況の報告を求め、総労働時間が基準を超えた場合に「本業での残業禁止」や「副業の中止勧告」ができる旨を就業規則に明記してください。
3. 副業申告の記録を審査証拠として整備する
誰が・いつ・どのような副業を申告し・会社がどのような判断をしたか、という記録を書面(または電子データ)で残してください。審査では副業申告の一覧と承認記録の提出を求められることがあります。
「申告制にしているが記録が残っていない」「口頭で承認していた」というケースは、体制が形骸化していると判断されます。副業申告書の様式を整備し、申請・承認・記録保管のフローを確立してください。
4. 競業避止・情報管理規程を副業専用に整備する
雇用契約書や就業規則に競業避止条項がある場合でも、「副業・兼業の文脈での競業」に明確に対応した規程になっているかを確認してください。特に以下の点を明記することが重要です。
- 同業他社・競合サービスでの副業・アドバイザー就任の禁止または事前承認制
- 業務上知りえた情報の副業先での利用禁止
- 役員・管理職が副業する場合の利益相反チェックの手続き
- 違反した場合の懲戒規定
特に役員・管理職の副業については、一般従業員と異なる水準での管理が求められます。役員会・取締役会での承認を必要とする仕組みを整備し、承認記録を議事録に残してください。
5. 副業管理の状況を重要会議で定期報告する
副業申告者数・承認状況・労働時間通算の管理状況を、重要会議の定期報告事項として組み込んでください。「副業を認めているが経営陣は実態を把握していない」という状態は、ガバナンス上の重大な問題として評価されます。
経営陣が副業管理の実態を定期的に確認し、問題があれば是正できる体制があることを、議事録として記録に残すことが審査対策のみならず事業継続性の観点から重要です。

チェックリスト:副業・兼業管理体制の整備確認
以下の項目を人事担当幹部・CFOで確認してください。
□ 就業規則に副業・兼業の申告・承認手続きと禁止類型が明記されている
□ 副業申告書の様式が整備され、申請・承認・記録保管のフローが確立されている
□ 副業先が雇用契約の場合の労働時間通算管理の仕組みがある(管理モデルの導入を含む)
□ 副業従業員の総労働時間が月100時間未満・複数月平均80時間以内に収まっているか定期確認している
□ 長時間労働者への医師による面接指導が副業者にも実施されている
□ 競業他社・競合サービスでの副業を禁止または承認制としている
□ 業務上知りえた情報の副業先での利用禁止が規程に明記されている
□ 役員・管理職の副業については取締役会等での承認を必要とする仕組みがある
□ 副業管理の状況が経営会議で定期報告されている
□ 副業申告書・承認記録が書面または電子データで保管されている
「副業OK」と掲げながらこれらが未整備の企業は、IPO審査で深刻な指摘を受ける可能性があります。今すぐ整備着手が必要です。
おわりに――「解禁」は出発点に過ぎない
副業・兼業の解禁は、採用競争力の強化や従業員のキャリア支援という観点から、上場準備企業にとっても意義のある施策です。しかしそれは「解禁する」ことで完結するのではなく、「適切に管理できる体制を整えたうえで解禁する」ことで初めて意味を持ちます。
管理体制なき副業解禁は、労働時間管理の不備・未払い残業代リスク・情報漏洩という3つの爆弾を抱えながら経営することと同義です。審査担当者は「副業を認めているか」ではなく「副業をどう管理しているか」を問います。
上場準備を進める中で「副業OKにしたいが管理が不安」「すでに解禁しているが体制が整っていない」という方は、早急に管理体制の整備に着手してください。是正実績の積み上げには時間がかかります。
宮嶋社会保険労務士事務所では、副業・兼業管理規程の整備から、就業規則改訂・申告フロー構築・審査対応まで一貫してサポートしております。現状の体制診断からでも、ぜひご相談ください。
参考法令・資料:以下はいずれも厚生労働省公式資料です。
①副業・兼業の促進に関するガイドライン(令和4年7月改定版・本文)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000962665.pdf
②副業・兼業の促進に関するガイドライン パンフレット(令和7年3月31日改定版・最新)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/000996750.pdf ※モデル就業規則の規定例・管理モデル導入様式例・合意書様式例を収録
③副業・兼業における労働時間の通算について(管理モデル専用リーフレット)
https://www.mhlw.go.jp/content/11200000/001086159.pdf
投稿者プロフィール

- 代表社員
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2000年、28歳で未経験ながら宮嶋社会保険労務士事務所を開設。
証券会社にて公開引受審査の監修や実査を行い、IPO労務支援の先駆者として多くの企業の上場を支援する。自身も上場企業の役員の経験があり、審査する側とされる側の経験を持つ稀有な存在。
企業のビジネスモデルを踏まえた、形式だけではない実質基準のコンサルティングを行い、高い信頼と評価、そして実績を残している。
開業時から多くのスタートアップの支援を行い、近年では、大学発スタートアップのコミュニティの支援も行っている。



