【IPO準備企業の経営者必見】上場審査を突破する「労務」の切り札!金融庁のサステナビリティ開示と女性活躍推進法・次世代法の戦略的活用法
IPO(新規株式公開)を目指す経営者の皆さん、準備は順調でしょうか。事業計画、財務戦略、コーポレートガバナンス体制構築など、やるべきことは山積しています。しかし、その中でも見過ごされがちで、かつ上場審査の成否を分ける重要ポイントが「労務コンプライアンス」です。特に、最近の法改正や金融庁の新たな方針により、その重要性はかつてないほど高まっています。
私はIPOに特化した社労士として、数多くの企業の労務監査をサポートしてきました。その経験から断言します。これからの上場準備において、「女性活躍推進法」と「次世代法」、そしてこれらに直結するサステナビリティ開示義務は、単なる事務手続きではありません。これらを戦略的に活用できるかどうかが、上場後の成長、ひいては企業価値の最大化を左右するのです。
1. 迫りくる「サステナビリティ開示」義務化の波とIPO
ご存じの通り、気候変動を含むサステナビリティ情報の有価証券報告書での開示を段階的に義務化する方針を打ち出しました。これは、世界的なESG投資の高まりに対応するもので、上場企業は「E(環境)」「S(社会)」「G(ガバナンス)」に関する情報を投資家に示すことが求められます。
注目すべきは、この開示義務の対象が、将来的には時価総額3兆円以上の大企業から段階的に拡大される点です。現在はIPOを目指すスタートアップや中堅企業でも、上場後を見据えた体制構築が不可欠となります。
この開示項目には、サプライチェーン全体の温暖化ガス排出量「スコープ3」といった環境情報だけでなく、「女性管理職比率」や「男性の育児休業取得率」といった社会・ガバナンスに関する項目も含まれています。これはまさに、従来の労務管理が「企業の持続可能性」という観点から、投資家の厳格な評価対象となることを意味しています。

2. 女性活躍推進法・次世代法は「守るべき法律」から「魅せるべき実績」へ
ここで、多くの企業が既に耳にしているであろう「女性活躍推進法」と「次世代法」の出番です。これらの法律は、従業員101人以上の企業に対し、行動計画の策定や情報公表を義務付けています。
- 女性活躍推進法:職業生活における女性の活躍を推進するための法律で、「女性管理職比率」や「男女の平均継続勤務年数の差異」などの項目を把握し、行動計画を策定・公表することが求められます。
- 次世代法:仕事と子育ての両立を支援する法律で、育児休業制度の取得促進などを盛り込んだ行動計画の策定・公表を義務付けています。特に、「男性の育児休業取得率」は近年非常に注目されています。
これまでこれらの法律は「コンプライアンスチェックリスト」の一つに過ぎないと捉えられがちでした。しかし、金融庁のサステナビリティ開示義務化により、これらの法律に基づく具体的な取り組みと実績が、そのまま上場審査と投資家評価の重要な指標となるのです。つまり、「女性管理職比率の向上」や「男性の育児休業取得促進」は、単なる法令遵守ではなく、企業の「社会性(S)」や「ガバナンス(G)」の健全性を示す客観的なデータとして機能します。
3. 上場審査を突破する「労務」の戦略
上場審査において、労務管理体制の不備は「上場延期」や「承認見送り」の直接的な要因となり得ます。
- コンプライアンス違反リスク:
- 長時間労働の常態化、残業代未払いなど、労働基準法違反がないか?
- 36協定や就業規則、各種規程が正しく整備・運用されているか?
- そして、女性活躍推進法や次世代法に基づく義務を適切に履行しているか?
サステナビリティ開示が義務化される今、これらの不備は単なるコンプライアンス違反に留まらず、「企業の将来性への懸念」として投資家に受け取られるリスクが高まります。
「女性管理職が極めて少ない」「男性の育児休業取得者がゼロ」といったデータは、投資家にとって「多様性の欠如」「人材の定着率の低さ」「リスク管理意識の低さ」の証左と見なされる可能性があります。これは、IPO後の企業価値に直接的な影響を与えるのです。
4. 労務管理は「コスト」ではなく「企業価値創造」への投資
上場準備中の経営者の皆さんに、ぜひ視点を変えていただきたいことがあります。労務管理や女性活躍推進法・次世代法への取り組みを「余分なコスト」「面倒な手続き」と捉えるのは、非常にもったいないことです。
これらの取り組みは、企業価値を高めるための戦略的な投資です。
- 採用力向上と人材定着:働きやすい環境は、優秀な人材を引き付け、定着率を高めます。これは事業の継続的な成長に不可欠です。
- 企業ブランド向上:社会的な責任を果たす企業として、顧客や社会からの信頼を獲得します。
- ESG投資の呼び込み:健全な労務体制は、ESG評価を向上させ、成長志向の長期投資家を呼び込みます。これにより、上場後の株価安定や企業価値の向上につながります。
これらの要素は、単に上場審査を通過するためだけでなく、上場後も持続的に企業を成長させるための基盤となります。

5. 社労士が伴走するIPO成功への道
IPO準備は、法務、財務、労務の専門家が一体となって進めるプロジェクトです。特に労務領域は、日々の労働環境と密接に関わるため、専門的な視点でのチェックと改善が不可欠です。
- 労務コンプライアンス監査:法令遵守状況を網羅的にチェックし、上場審査に向けた改善点を洗い出します。
- 規程・制度の整備:就業規則や賃金規程、育児介護休業規程などを上場基準に準拠した形に整備します。
- サステナビリティ開示に向けたデータ収集支援:今後求められる「女性管理職比率」や「男性の育児休業取得率」などのデータを正確に把握・整理する体制を構築します。
IPO成功は通過点に過ぎません。その後の持続的な成長を実現するためには、強固な労務基盤が不可欠です。ぜひ、労務のプロフェッショナルである社労士と連携し、IPOという大舞台で輝くための準備を進めてください。
上場審査で「労務の優良企業」として評価されることは、間違いなく御社の大きな強みとなり、投資家からの信頼という最高のパスポートを手に入れることにつながります。
投稿者プロフィール

- 代表社員
- 開業社会保険労務士としては、日本で初めて証券会社において公開引受審査の監修を行う。その後も、上場準備企業に対しコンサルティングを数多く行い、株式上場(IPO)を支えた。また上場企業の役員としての経験を生かし、個々の企業のビジネスモデルに合わせた現場目線のコンサルティングを実施。財務と労務などの多方面から、組織マネジメントコンサルティングを行うことができる社会保険労務士として各方面から高い信頼と評価を得る。