退職代行への対応とIPO審査の意外な関係性。ガバナンスが企業成長を左右する。

Point
  • 退職代行から連絡が来た際は「冷静・迅速・事務的」に事実確認を行い、本人の心が離れていることを受け入れつつ、粛々と退職手続きを進めることが原則となる。
  • IPO審査では、退職代行の多発が「労務ガバナンスの欠如」と「人材定着率の低さによる成長可能性への懸念」として評価を下げ、企業価値に影響する。
  • 連休明けに退職代行の相談が集中しやすいため、日頃からエンゲージメントを把握し、予兆の早期発見と対話できる関係性を整えることが重要。
  • 退職代行による絶縁を避け、丁寧な退職対応を通じてアルムナイ採用につながる良好な関係性を築くことが、これからの企業に求められている。

はじめに

近年、急増している「退職代行サービス」。特にゴールデンウィークや盆暮れなど、大型連休明けには相談件数が跳ね上がる傾向にあります。ある日突然、見知らぬ業者から「〇〇さんは本日をもって退職します」と連絡が入る事態は、経営者にとって大きな衝撃です。

しかし、IPO(新規上場)を目指す企業にとって、これは単なる一従業員の離職問題ではありません。退職代行の発生は、組織の「ガバナンス(企業統治)」や「企業成長の持続性」に対する市場からの疑義を招くリスクを孕んでいます。本記事では、退職代行への適切な向き合い方と、上場審査を見据えた「選ばれる組織」への改善策を解説します。

1. 退職代行から連絡が来た際の「対応3原則」

代行業者から連絡が入った際、会社側がとるべき態度は「冷静・迅速・事務的」であることです。以下の3原則を徹底してください。

① 感情的にならず、事実ベースでヒアリングを行う

代行業者からの連絡に対し、怒りや困惑を本人に直接ぶつける(電話をかける、問い詰める等)ことは厳禁です。まずは冷静になり、当該従業員の上司や同僚に対し、事実ベースのヒアリングを行ってください。

  • 直近の業務量や残業時間はどうだったか?
  • 周囲との人間関係、あるいは特定の人物による不適切な言動(ハラスメント)はなかったか?
  • 本人の様子に変化(遅刻の増加、元気がない等)はなかったか?

現場で何が起きていたのかを正確に把握することが、後の紛争防止や再発防止策の策定に不可欠です。

② 「心が離れている」ことを受け入れ、次を考える

退職代行を利用するということは、本人の中で「会社と直接話すことすら苦痛である」あるいは「まともに話を聞いてもらえない」という意思表示です。すでに本人の心は会社から離れており、無理な引き止めはさらなる反発や法的トラブル、あるいはSNS等でのレピュテーションリスクを招くだけです。執着せず、「なぜ代行を使わざるを得なかったのか」を分析した上で、速やかに欠員補充や業務分担の見直しといった「次のステップ」に思考を切り替えましょう。

③ 粛々と退職事務を行う

代行業者の法的権限(弁護士か、労働組合か、民間業者か)を確認した上で、必要な事務手続きを淡々と進めます。

  • 貸与品の回収:PC、社員証、健康保険証などの返却手順を確定します。
  • 給与・退職金の精算:有給消化を含めた最終的な支払額を計算し、遅滞なく精算します。
  • 書類の交付:離職票や源泉徴収票など、法的義務のある書類を速やかに送付します。ここでの不備は、労基署への通報やIPO審査におけるコンプライアンス違反の指摘事項に直結します。

2. IPO審査と「退職代行」の意外な関係

IPO審査において、審査機関は企業の「継続性」と「健全性」を厳しくチェックします。

労務ガバナンスへの疑義

退職代行が頻発する組織は、「内部でのコミュニケーションが不全である」とみなされます。これは、社内の通報窓口やハラスメント対策が機能していない(ガバナンスの欠如)という評価に繋がります。

成長可能性への懸念

特にスタートアップやIPO準備企業において、「人」は最大の資本です。退職代行による離職が目立つ場合、「人材の定着率が低い=ビジネスモデルの再現性や成長性に疑問がある」と判断され、上場時のバリュエーション(企業価値評価)に悪影響を及ぼす可能性があります。

3. 連休明けの「魔の期間」を乗り越えるエンゲージメント対策

退職代行の相談は、連休中に自らのキャリアや環境を冷静に見つめ直した結果、連休明けに集中する傾向があります。これを防ぐには、日頃からの「エンゲージメント(貢献意欲・愛着)」の把握が重要です。

  • 予兆のキャッチ:パルスサーベイ(簡易的な意識調査)や勤怠データの分析により、社員の「心の離反」をいち早く察知する仕組みを構築しましょう。
  • 理由のある退職を目指す:やむを得ず退職する場合でも、代行を通さず「一身上の都合」として直接話し合える関係性を維持すること。そのためには、日常的な1on1や心理的安全性の確保が不可欠です。

4. アルムナイ(卒業生)採用を見据えた組織文化

近年、一度退職した従業員を再雇用する「アルムナイ採用」が注目されています。

退職代行で絶縁状態になってしまうことは、将来的な再雇用の可能性をゼロにするだけでなく、外部からの「元社員による悪評」のリスクを高めます。

「外の世界で経験を積んで、また戻ってきたいと思える会社」

「退職しても、良き理解者・ビジネスパートナーとして繋がっていられる関係性」

こうした雰囲気作りは、一朝一夕にはできませんが、退職時の丁寧な対応こそがその第一歩となります。退職代行という「最悪の出口」を、自社の組織課題を浮き彫りにする「改善の入り口」と捉え直すマインドが、これからの経営者には求められています。

5. まとめ:宮嶋社会保険労務士事務所の支援

退職代行への対応に追われる日々は、IPOへの道を遠ざけます。当事務所では、IPOを見据えた労務監査(労務DD)を通じて、代行を必要としない「風通しの良い組織作り」と「強固なガバナンス体制」の構築を支援しています。

「最近、若手の離職が目立つ」「連休明けの退職が不安だ」という経営者様は、ぜひ一度ご相談ください。

投稿者プロフィール

宮嶋 邦彦
宮嶋 邦彦代表社員 
2000年、28歳で未経験ながら宮嶋社会保険労務士事務所を開設。
証券会社にて公開引受審査の監修や実査を行い、IPO労務支援の先駆者として多くの企業の上場を支援する。自身も上場企業の役員の経験があり、審査する側とされる側の経験を持つ稀有な存在。
企業のビジネスモデルを踏まえた、形式だけではない実質基準のコンサルティングを行い、高い信頼と評価、そして実績を残している。
開業時から多くのスタートアップの支援を行い、近年では、大学発スタートアップのコミュニティの支援も行っている。